「ただ我慢するしかない」 性被害を受けた少年たちの傷を考えるきっかけにしてほしい作品:映画『スリーパーズ』
ジャニー喜多川氏の性加害問題を、映画『スリーパーズ』を通じて考える。
性被害は、「魂の殺人」と呼ばれるほど、被害者の心に大きな傷を残します。
ジャニーズ事務所創業者の故ジャニー喜多川氏による性加害問題で、実名で被害を告白する人たちが増えていますが、彼らの心情はいかばかりでしょう?
そこでぜひ観ていただきたいのが、1996年の『スリーパーズ』です。
本作を通して、性被害を受けた少年たちの「殺された魂」について考えてみます。
■『スリーパーズ』とは?
1996年公開の『スリーパーズ』は、『レインマン』(1988年)でアカデミー賞監督賞を受賞したバリー・レヴィンソンが、監督、脚本、製作を務めた社会派ドラマ。
少年院で、看守から性的虐待を受けた4人の少年たちが、大人になって、かつての加害者へ報復を仕掛ける復讐劇です。
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■勧善懲悪な娯楽作品
全147分と、かなり長編である分、メインとなる登場人物4人の少年期と成人期が絶妙な塩梅で配分され、彼らが復讐に至るまでの心理的プロセスには、十分な説得力があります。
加えて、成長した彼らが、ひとつひとつ確実に復讐を遂げていく様は、ある意味非常にわかりやすい「勧善懲悪」な展開で、「娯楽作品」としては、超一級のエンタテイメントに仕上がっているといえるでしょう(もちろん、ロバート・デ・ニーロ、ブラッド・ピット、ダスティン・ホフマン、ケヴィン・ベーコン等、豪華な出演陣による部分もあります)。
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■殺された魂の行方
ですが劇中、少年たちは、自分たちが受けた性的虐待について、こんな言葉を吐きます。
「だれにも知られたくない…母親にも。だれにも(I don’t want anybody to know…not my mother. Nobody.)」
「ここを出たら、あのことは忘れるべきだ(I don’t even think we should talk about it once it’s over.)」
彼らは確かに被害者のはずなのに、体だけでなく心まで傷つけられたはずなのに、何もなかったかのようにすべてを隠そうとするのです。
そして出した結論は。
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■「ただ我慢するしかない」
元の台詞は、「We got no choice but to live with it.」となっており、「そのことを胸にしまって生きていかざるをえない」のような意味になりますが、「選択肢はゼロ(no choice)」、つまりは「どこにも逃げ場がない」状況を表しているといえます。
さらに我慢しつづけ、殺された魂を抱えたまま生きていくことがどれほど過酷か、それを世間に名乗り出ることがどれほどの覚悟と勇気がいるか、想像にかたくありません。
「魂の殺人」の被害者が救われる道はどこにあるのか、共感する生物である人間として、私たちは真剣に向き合う時期に来ているといえるでしょう。
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(文/fumumu編集部・尾藤 もあ)