アダルト業界関係者が感じた「AV新法」と適正AV業界の激震

アダルト業界の作り手側で働く女・るいが、無限に広がる「性」の世界…ファンタジーを通して見る「リアルな性」の話を、本音でお伝えしていきます!

■1か月前の契約

さて、内容面を見ると、「②業者(制作会社等)に出演への説明や契約を義務付ける」という部分に関しては、今までも適正AVにおいては、撮影の度に書類等で説明・意思確認を行ってきました。

大きく変わったのは、「③契約から撮影まで1か月、撮影から発表まで4か月を空ける」義務が発生したことです。

もともと適正AVでは、撮影の度に女優さんが「アダルトビデオ出演意思確認書の記入」を行っていました。大きな違いは、この確認書は今まで撮影当日に記入するものだったという点です。つまり、当日までは撮影するメーカーとの間ではスケジュールや内容のすり合わせのみ行い、署名や捺印を必要とするやりとりは行っていなかったのです。これにはいくつか理由があるのですが、たとえば「女優さんが当日まで迷えるように、キャンセルしやすいように」という適正AV業界なりの配慮が挙げられます。

実際デビューを控えた女優さんなどで、前日になって「やはり出演したくなくなった」という方がいらっしゃいます。その場合、適正AV業界では女優さんの意思を尊重して、たとえ当日のキャンセルであろうと撮影を中止にしていました。これには、「まだ書類は交わしていない」という心の余裕もあると私は思っていて、もし、1か月前にすでに書類を交わしていたら…?いくら「契約解除できます」と言われていたとしても、「自分がすでに契約を交わしているから」と、責任感を持ってしまい、気持ちをこらえて出演するケースも増えてしまうのでは?と私は危惧しています。

もっとも、「1か月前に契約」という言葉の重みによって、出演をそもそも迷う女性が増えるならば、それは喜ばしいことだと思っています。「気軽に出て、後悔する」のならば、一度踏みとどまって考えてもらったほうが双方のためになると思うからです。

しかし、どこのメーカーにも所属せず自ら望んで「AV女優」を職業としている、いわゆる「企画単体女優」になると、この問題は深刻です。もし当日体調を崩してしまった場合でも、「契約しているから」と無理を押して現場に来てしまうケースが増えるのでは、と危惧しています。それもそのはず、もしその撮影が流れた場合、代わりの撮影に出ようと思っても、最低でも一か月待たなければ新たな撮影をすることはできないのです。

メーカーとしても問題は深刻で、今までは企画作品の場合、体調不良の女優さんが出た場合は当日代わりの女優さんに来てもらって撮影していたのですが、それができなくなりました。さらにはこの法律は男優さんにも適用されるため、男優さんも当日急遽替わりの方を呼ぶことはできません。いわば、バイトで当欠が出ても、会社側が代わりを探すことが法律で禁止されている状態です。責任感の強い方ほど、無理を押してでも来てしまいかねません。


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■適正AV業界の一員として、

以上が現状AV業界に起きている激震についての一部となります。このような法律が、現場へのヒアリング無しに・また国から業界関係者への十分な説明なしに制定されたことで、制作活動を足踏みせざるを得ず、撮影の数がかなり減少している状態です。これは、業界関係者にとって死活問題です。

ここからは、適正AV業界の端くれとしての私見なのですが、端的に言って「この法律制定に恐怖を感じざるを得ない」と思います。

私たち適正AV業界の関係者は、法律に従い、税金を納めながら働いてきた一般市民です。また、少なくともここ数年のAV人権倫理機構設立以降は、今回の法律制定より前からAVの健全化を見据え、少しでも出演者の不利益にならないよう、内容も人道を外れたものにならないよう、出演者と制作側がなるべく協力し合いながら自主規制を行ってきました。

そんな現場の声を聞くこともなく、出演者の不利益があったというはっきりした証拠を提示することもなく、業界関係者への十分な説明もないまま、あたかも現在進行形で悪いことをしているかのようにいきなり法律を施行して刑罰を提示し、結果としてメーカーや出演者の仕事を規制している今の状況には本当に恐怖を覚えます。


■性産業=悪は正論なのか

そもそも、「AV出演」とは、「被害」だったり「救済」されたりしなければならないものなのでしょうか?私は大学生の頃、AV出演に憧れていましたし、AVに活力をもらっていました。AVという映像作品を見ていなかったら、もっと精神的に追い詰められていたと思います。皆が皆、そういうわけではないのは百も承知ですし、「好きになってほしい」とは全く思わないですが、それでも「AVだから」「性産業だから」というだけで悪とみなされ、それが「正論」として通っている現状には疑問を覚えます。

もちろん、「強要」は絶対にあってはならないというのはもちろんとして、たとえば「お金目当てで仕方なく」といったような、「性産業に従事したくない人が従事する」といったようなことも、今の適正AV業界関係者は望んでいません。過去にも書いたように、「出演希望」の方は後を絶たないからです。それに仮にそういった事態があるとして、問題は「AVが存在すること」ではなく、「やりたくないことをやらなければならない状態」=「社会が性産業をセーフティーネットにしている状態」そのものなのではないでしょうか。

私は適正AV業界の制作側の人間として、まず出演者の方々の安全と安心を一番に考えなければなりませんが、どの立場の方とも対立したいわけではありません。一方的な突き付けや対立ではなく、納得できる証拠と議論による歩み寄りによって社会の仕組みを作ってほしい、というそれだけの想いです。

AV業界や性産業に限らず、きちんと納税を行っている一人一人それぞれのお仕事が、しっかり議論を重ねて法整備がされることを願いながら、そしてどうか一人でも多くの人が生きやすいよう、多様性と寛容さを持った社会になってほしいと願いながら、一有権者としてまずは来週の選挙に臨みたいと思います。

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(文/fumumu編集部・るい

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